ゲームオーバー

私のこと好きなくせにヤケに楯突いてくるので軽く突き飛ばしたら「人の気持ちを軽んじるな」と言い出したので、はい、ゲームオーバーですと伝えた。

今まで築き上げた信頼や感謝や思い出の数々、プレゼント、全てがブラックアウトし、耳慣れたオープニング曲が流れる。テッテレー、テレレー。

あなたは嘘でしょと目を見開く。もう手遅れで、「ドッドッ」と不気味に心拍数かあがり、口をぽかんと開けている姿がありありと想像できる。たまらない気持ちになる。私、情けないあなたを見るのが本当に好きだった。最後の最後に残しておいたとっておきのデザート、「唐突に別れを切り出され激しく動揺するあなた」を堪能して本当に本当に気持ちがいい。だって、本当に好きだったから。

でも、もう一切好きじゃなくなった。女ってすごい。忘れられない男なんてほんの一部で、だいたいのモトカレはすかんと忘れる。大好きで大好きでたまらなかった人間をあっさりと忘れる。名前すら思い出せないモトカレ、記憶から抹消されているモトカレすらいる。

多分、あなたのことも3ヶ月経てば忘れる。その頃には私は結婚して馬鹿みたいに幸せそうな家庭を築きあげているかもしれない。あなたはこの幸せを掴むための、肥料か踏み台にしかすぎなかったのだ。

あなたは慌ててスタート画面の「はじめる」を連打して、チュートリアルをかっ飛ばし、主人公の名前に自分の名前を充てる。しばらくすると、女の子のキャラクターが登場し仲間になるのだが、残念なことに私じゃない。もう私じゃない。知らない適当な女がそこにいる。とにかく私じゃないのだ。本当に好き同士だったけど、もうダメなのだ。

布団にくるまって「もう別れよう」「さようなら」と打ち、そっとスマホのロックをかけた。あなたの気持ちを軽んじてるつもりじゃないけど、確かに可愛そうだなとは思う。でも、ゲームオーバーなのだ。今日は心地よい悲壮感に酔って眠りにつけそうだ。

たまらないセンチメンタルを提供してくれたあなたとの思い出を、噛んで噛んで噛みまくって味がしなくなるまで噛みまくって、忘れてしまおう。23人目の彼氏。3ヶ月しか付き合っていなかったが。


その後23人目のモトカレとなったあなたは、3週間後、女の子とのツーショットをツイッターにあげていた。TDLなう、とかいって頭悪そうに耳のカチューシャをつけていた。

あたしといえば、バーで知り合った男と適当にホテルに行ったり、ナンパしてきた男の家について行ったりしていた。

後味の悪いガムを噛ませやがって、と舌打ちする。

そして24人目の彼氏をあわてて探す。あっさり見つかる。

 


もしかすると、ゲームオーバーになったのはモトカレたちではなく、私自身なのかもしれない。途中で投げ出して自らゲームオーバーにしたのかもしれない。やけくそになって、とにかく酷いシナリオをつくって、ゲームオーバーにしたのかもしれない。

私の名前と24人目の名前を、ゲーム画面に入力する。見慣れたチュートリアル。恋愛ゲームから抜け出せない私は、またゲームを始める。


そしてゲームオーバーが始まる。