無題

何かを生み出す者の両手は、いつだって塞がれている。そこに、私がするりと器用に潜り込めたとしても、抱きしめられることなどない。体温を奪われ、愛情を搾取され、そしていずれ邪魔になり、背を向けられ、「こっちにくるな」と言われる。

そのような運命を熟知している私が、不幸に耐え得る精神力を持ち合わせていたのは、不幸を大の好物にしているからということに他ならない。

 

不幸を背負い、破滅の花道を歩こうとも、お前の作り出した世界とやらに、私はいつか飲み込まれてしまう。そして、ただの女になってしまう。

ひたすらに幸せを願う、ただの女になってしまう。

どうかせめて片手を私と手を繋ぐために、と願えばそっと振りほどかれた。


そして、私の手はお前という虚像をいっぱいに抱えて、お前を抱きしめることも、しがみつくこともできなくなった。かといって私がその手で生み出すものは全てまやかしで、そのことに気付いた時には馬鹿馬鹿しさにに笑いが止まらなくなった。

お前の像と私が作ったまやかしの世界を足元に叩きつければ、無残に粉々になって風にさらわれていき、腰が抜けるほど、簡単に散り散りになった。その様を見て、また笑った。

 

最高の不幸を材料に最高の愉快を、私がこの手で生み出せる唯一のものなのかもしれない。

丁寧に作ってあっけなく壊して、噛み締めれば、それが“もの”となっていた。

野良の出来事

目ヤニまみれになった私の目頭を拭って、「捨て猫みたいだなぁ」と言ってきたので腹が立った。違う。捨てられたんじゃない。私は自分で自由を選んだのだ。

昨夜はよく酒を飲んだ。ビールもレモンサワーも日本酒もシャンパンも飲んだ。ひどい飲み方だった。バーを3件ほど梯子したらぐちゃぐちゃな飲み方になった。気付いたら朝の4時で、気付いたらよく知らない男の家で目が覚めた。

男は身体の隅々までタトゥーが入っていた。男についての記憶を辿ると、3軒目のバーで「その腕のタトゥー、どういう意味なんですか」と私が話しかけたのだ。驚かないでね、と笑いながら「特に意味はない」と答えられたので、なんかこの人好きだなと思った。デザインがよくてさ。そう楽しそうに話す男は無邪気で、酒のつまみに大変良かった。

私はタトゥーについて無知だが、腕に掘られた水滴の王冠のタトゥーはとても綺麗だった。腕をまくったパーカーの袖から覗いた水滴は、薄暗い照明の中でも透き通っており、私の心をつかんだ。意味がないことを含めて、私を魅了したのだった。

それから色々と話をして、家が近いからうちで寝ていきなと言われたのでついていった。古いが広く、よく手入れされた家だった。そして、和室に置かれたシングルのコイルマットレスに二人で倒れこむように眠った。目がさめると化粧を落とさず寝たことや花粉症もあり目頭がゴミゴミとして思わず顔をしかめた。ここはどこだろうと一瞬思ったがすぐに悟った。タトゥーの人の家か。あたりをキョロキョロしていると目ヤニまみれになった私の顔を男が拭った。私は捨て猫じゃない。捨てられてない。拾われてもない。自分で選んでここにきた。記憶の断片を寄せ合めながらそう思った。この人のタトゥーを少し見たいと思った。それだけのことだ。


私は野良になって2年が経った。誰かに飼われることを憎み、恐れ、時には憧れながらも拒絶して生きてきた。そのタトゥーに意味がないように、私の生き方にも意味がない。意味がないことが、どれだけ尊く、一番の理由になり得るかを私は知っていた。

適当に抱かれてしまうくらいなら帰ろうと思い、帰り支度をすると次いつ飲むの?と聞かれたので、気が向いたらと答えたら笑われた。男は身長が高く、髪が長かった。仕事はアパレルのデザイナーだとか言っていた気がする。嘘かもしれないし、記憶が定かではない。ただ、もう会わないと思う。また同じ街のどこかでバッタリ会った頃には、もう忘れてしまっていると思う。


その男のことは、掘られたタトゥー全てに意味がないことしか知らない。それだけ知れればもう良かったのだ。顔の輪郭や声、会話の内容がひとつひとつ泡が弾けるように消えていく。それで良い。知ってしまうとまた、悲しい思いをするから知らなくていいのだ。

男に嘘つかれたとかつかれてないとかの話

お前の好きも幸せにするも全部テキトーで責任なくて最高に無意味。私はそういう無意味が本当に大嫌いなんだよ。言葉に責任がなくて何も刺さらない響かない。そういう言葉は歓談曲のように耳を流すようにするりと通り抜けて消える。心地よくて、本当に無意味。

人間は言葉を選り好みしつつ、恐る恐る信じる。信じるのが怖い、怖いけど信じたい、信じる。そうしてようやく「意味」が生まれる。「成立する」というのか。人を動かすってそういうことだ。動かなきゃ駄目なんだ。何も進まない、後退もしない、そういう言葉は何にもなれず忘れ去られていく。伝わらないって言葉に失礼だ。非力で、可愛そうだ。

時折、かなり強靭な言葉で人を欺くことができる人間がいる。それを嘘という。嘘はだいたい嘘だとわかる。嘘だとわからない時もある。しかし、どちらにせよ確実な悪意がある。悪意がない人もいるらしいがそれはよくわからない。障害だか病気だか知らないが、良くないことなので頑張ってほしい。

 

私は、非力な言葉を過大評価したばかりに振り回される自分がいてそれに一番腹が立っている。馬鹿が。と自分に吐き捨てればそれも無意味な言葉として宙に舞って消える。むしろ消えてほしい。結果として無意味だった、それを嘆くのが本当に無意味でみっともなくて嫌になる。


「ねぇ、どのくらい本当だった?」

泣きたくなる。語りかける相手はいない。誰もいない空間にポツリとぼやくのだ。

全部嘘じゃないよね、だって、私信じたんだよ。その時一瞬でも、信じたんだよ。


本当に意味がない。あなたが言葉に乗せた意味、そしてその重みは私にはわからない。ただ、そのことについてむしゃくしゃとして悶々と考え込む時間すら無意味で馬鹿馬鹿しくて、かっこわるい。


無意味な言葉をたんまりとまとった私はいつか本当に「意味」を引き寄せ、この手で掴むことができるのだろうか。そして、誰かを諭し、「意味」を与えることができるのだろうか。


私が選んだ言葉が、意味のある言葉として世に残り続ける。残すために今までもこれからも生きていく。

 

私のポリシーを滅茶苦茶に貶した罪は、人知れず、ひっそりと重い。

 

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とある日記

妊娠を知った女子高生は、うつむきながら得体の知らない恐怖に涙を流した。医師に「お母さんにも伝えないと」と諭すと、彼女はしっかり「はい」と答えて、涙を拭った。
今時の派手さはあるものの、しっかりとした子だなと思った。産婦人科の看護師として7年間、幾度となく類似した状況を目の当たりにしてきたが、こう凛とした少女は稀だ。
「お母さんにバレてやばい。今すぐ中絶したい。」と泣いて取り乱す女の子もいれば、あっさりと「ああ、降ろします。」なんて言う子もいた。
彼女はどちらかというと、家族に心配をかけてしまうことに対して責任を感じているようだった。避妊に失敗したのか、避妊をしていなかったのかは不明だが、自身の妊娠を辛そうに受け止めているようだった。

しばらく経った後、経過診察の日に、きちんと母親も連れてきた。
私が働くクリニックでは、どういったケースでも、出産を前提に話す。今後の経過や、生活をする上での注意事項を話し、最後に「なにか質問はありますか」と問われた女子高生は「ありません。」ときっぱり言った。
そのまま診察が終わりそうな雰囲気になった時、母親がすごく苦しそうに「産むことは考えていないんです」と 話を切り出した。法律では、 未成年で保護者の管理下にあるとはいえ、 妊娠継続の判断は当事者である妊婦とパートナー次第になる。 そこに保護者の意見で判断することはできない。 ということの説明の上で、 どちらにせよまた○日後に、と診察を終えた。診察室のスライドドアが控えめにピシャリと鳴って、沈黙が流れた。

そうだ、母親の気持ちも痛いくらいわかる。彼女はまだ10代で、社会で生きていく術をまだ十分に身につけていないのだ。「まだ子どもなのに、子どもなんて育てられるわけない………」世間の声が冷たく刺さるように降りかかってくる。
しかし、彼女の受け答え、凛とした姿を見ると出産を強く望んでいるようだった。年齢や経済力、問題も障害も山のように存在し、悩み苦しむことは避けることができない。先ほど妊娠が発覚した大学生がえーヤバイ堕ろそと言っていたのを思い出させた。あまりにもポップでライトに発せられた言葉は宙に浮いて、私の意識を遠ざけるのであった。一方で高校生である彼女が、ここまで意思を固められるのは、頼もしく、尊かった。
若さゆえ、未経験ゆえ社会の厳しさを知らないこともあるかもしれないが、本気で望んでいるなら負けないでほしいなと漠然と考えていた。

その後しばらく診察予定日過ぎても受診に来なかったので、他の医院にいっちゃったのかなと医師と話していると丁度久しぶりに受診しに彼女が来た。医師が改めて意思確認すると、「はい。産みます。」とはっきり答えた。
長年看護婦として医療の現場にいるが、嬉しさのあまりつい泣きそうになった。産むならサポートすると母親も言ってくれたそうだ。
ここまで説得するのに、どれくらい自分の気持ちを話して、 どれくらい話し合ったのだろうか。

10代の妊娠・結婚は、離婚率も高い。虐待のリスクも高くなると言われてる。 高校をどうするのかもわからないし、 学歴を順調に積み重ねてはいけなくなる。 それによって収入の幅も狭まるかもしれない。 パートナーもどれくらい頑張れるのか、 経済面はもちろん、精神面も。
そういうのも含めてサポートできる行政、 地域のコミュニティがもっともっと機能していけたら良いと思う。家庭・身内で課題や問題を乗り越えるこができればそれに越したことはないのだが、事情は人それぞれで、助けやサポートを求められるところは多い方が絶対に良い。 こんな私にも何かしら出来る日は来るだろうか。

何はともあれ、 どうか彼女たちが、この選択を後悔せず、 すてきな家庭、親子関係を築いていけますように。

そんなことを思った勤務日だった。

ゲームオーバー

私のこと好きなくせにヤケに楯突いてくるので軽く突き飛ばしたら「人の気持ちを軽んじるな」と言い出したので、はい、ゲームオーバーですと伝えた。

今まで築き上げた信頼や感謝や思い出の数々、プレゼント、全てがブラックアウトし、耳慣れたオープニング曲が流れる。テッテレー、テレレー。

あなたは嘘でしょと目を見開く。もう手遅れで、「ドッドッ」と不気味に心拍数かあがり、口をぽかんと開けている姿がありありと想像できる。たまらない気持ちになる。私、情けないあなたを見るのが本当に好きだった。最後の最後に残しておいたとっておきのデザート、「唐突に別れを切り出され激しく動揺するあなた」を堪能して本当に本当に気持ちがいい。だって、本当に好きだったから。

でも、もう一切好きじゃなくなった。女ってすごい。忘れられない男なんてほんの一部で、だいたいのモトカレはすかんと忘れる。大好きで大好きでたまらなかった人間をあっさりと忘れる。名前すら思い出せないモトカレ、記憶から抹消されているモトカレすらいる。

多分、あなたのことも3ヶ月経てば忘れる。その頃には私は結婚して馬鹿みたいに幸せそうな家庭を築きあげているかもしれない。あなたはこの幸せを掴むための、肥料か踏み台にしかすぎなかったのだ。

あなたは慌ててスタート画面の「はじめる」を連打して、チュートリアルをかっ飛ばし、主人公の名前に自分の名前を充てる。しばらくすると、女の子のキャラクターが登場し仲間になるのだが、残念なことに私じゃない。もう私じゃない。知らない適当な女がそこにいる。とにかく私じゃないのだ。本当に好き同士だったけど、もうダメなのだ。

布団にくるまって「もう別れよう」「さようなら」と打ち、そっとスマホのロックをかけた。あなたの気持ちを軽んじてるつもりじゃないけど、確かに可愛そうだなとは思う。でも、ゲームオーバーなのだ。今日は心地よい悲壮感に酔って眠りにつけそうだ。

たまらないセンチメンタルを提供してくれたあなたとの思い出を、噛んで噛んで噛みまくって味がしなくなるまで噛みまくって、忘れてしまおう。23人目の彼氏。3ヶ月しか付き合っていなかったが。


その後23人目のモトカレとなったあなたは、3週間後、女の子とのツーショットをツイッターにあげていた。TDLなう、とかいって頭悪そうに耳のカチューシャをつけていた。

あたしといえば、バーで知り合った男と適当にホテルに行ったり、ナンパしてきた男の家について行ったりしていた。

後味の悪いガムを噛ませやがって、と舌打ちする。

そして24人目の彼氏をあわてて探す。あっさり見つかる。

 


もしかすると、ゲームオーバーになったのはモトカレたちではなく、私自身なのかもしれない。途中で投げ出して自らゲームオーバーにしたのかもしれない。やけくそになって、とにかく酷いシナリオをつくって、ゲームオーバーにしたのかもしれない。

私の名前と24人目の名前を、ゲーム画面に入力する。見慣れたチュートリアル。恋愛ゲームから抜け出せない私は、またゲームを始める。


そしてゲームオーバーが始まる。

最近買って良かったもの

なんかアフィやってんですかとかどいつもこいつもうるさいので証明してやります。

アフィやってねぇつーの!

ということで以下にその実力をお見せします。

 

買って良かったものベスト3

 

第3位

なんか畳になってるサンダル

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足が疲れないのでめちゃくちゃ重宝している。歩くのが嫌いだがこれを履いている時だけ地下鉄2駅分歩ける。

居酒屋からパクってきたの?と聞かれるのでめんどくさい。

 

第2位

ドルツの安いやつ

パナソニック 口腔洗浄器 ジェットウォッシャー ドルツ 白... https://www.amazon.jp/dp/B00A2MGTVK?ref=yo_pop_ma_swf

なんかのブログで読んで買った。口が臭いと人生がつらいしなぁ。みんな買ってた。

届いて早速使うと歯茎から血がドバドバと出て、「顔面から転んだ人みたい」と言われた。

口がドブからあがったばかりのザリガニ臭でいっぱいになる。

このご時世いつ誰とキスするかわからないので買って本当に良かった。口臭はマジで気にならなくなった。

 

1位

アーモンドとっと

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飯を食べるのがめんどくさい時に重宝している。無限に食べれる。体に良さそう。

 

以上です。

アフィはやってせん。

てかアフィって何ですか?想像でこのブログを書きました。

ちなみにこの3つはマジで無限にリピートし続けているアイテムなので、俺のファンは必携3種の神器だと思って下さい。

 

明日はまともなポエム書くので。

では。

残像

愛されたさに狂った時、お前じゃない誰かに連絡する時、好きでもない誰かに雑に抱かれる時、うんざりするような恋愛映画を観終わった時、

どうせお前を思い出す呪いや病気、何かしらの災いの類に属する得体の知れない焦燥感に胸が焼けただれてしまう。

かっと目頭が熱くなり、喉がグッと鳴り、俄かに吐き気を感じながら、いつもより大股でスタスタを歩く。

ハアなんて大声でため息を吐いて、少し目を伏せて、キッと顔を上げて、下唇を噛んで、遠くを睨みつける。

そこにお前はいない。

残像もない。

無理に流し込んだウーロンハイがたぷたぷと胃を揺らし、酔ったくせにやけに研ぎ澄まされた脳から、お前への想いが鋭く私の胸や脳を刺す。

 


男は、賢い女が好きと口走るが、実際は綺麗で少しだけ賢い女を好む。私のことを優秀だと褒めた男は皆、私じゃない女(しかもバカ)を選んだ。

そして例に倣ってお前もそうした。

 


終電を無くしフラフラと歩いて帰る時、お前のことを考えていた。

 


お前は私のことを考えることがあるのだろうか。

愛に焦がれた時、ふと私のシャンプーの香りを脳裏にかすめ、ぎゅっと胸が詰まる苦しさを味わうことがあるのだろうか。

私が好んで飲んだ甘い甘い酎ハイの缶を指さして、「元カノがよく飲んでいた」と女に話すことがあるのだろうか。

 


ない。

根拠はないが「ない」と思った。

私と付き合っていた(と思っているのは私だけかもしれない)1年半を置き去りにして幸せになっていくんだ。

そういう男だった。

 


靴を流れるように脱ぎ捨て、慣れた感覚でスイッチを探る。白蛍光灯が酔いを覚ませと荒々しく肩を叩く。

飼っている赤いベタが驚いたように身体をひるがえらせたのが見えた。

冷蔵庫にはお前の最後の置き手紙が大事に貼り付けていたのを思い出して嫌な気持ちになったので破った。

その破った紙切れをパラパラとベタの水槽に入れる。

沈まず水面に浮いて、ベタが驚いたように機敏に慌てるように泳いでいた。

 


私の屁理屈や天邪鬼に慌てふためくお前にそっくりだった。

人間としての面影すら残さず、魚になって永遠とあたしに困らせられて死んでゆくんだと思った。あたしの家の小さな小さな水槽に魚になったお前がいる。

急に眠たくなったので、そのままカーペットにへたり込んで眠った。

 


次の日ベタは目を白くさせて紙にまみれて死んでいた。