無題

何かを生み出す者の両手は、いつだって塞がれている。そこに、私がするりと器用に潜り込めたとしても、抱きしめられることなどない。体温を奪われ、愛情を搾取され、そしていずれ邪魔になり、背を向けられ、「こっちにくるな」と言われる。

そのような運命を熟知している私が、不幸に耐え得る精神力を持ち合わせていたのは、不幸を大の好物にしているからということに他ならない。

 

不幸を背負い、破滅の花道を歩こうとも、お前の作り出した世界とやらに、私はいつか飲み込まれてしまう。そして、ただの女になってしまう。

ひたすらに幸せを願う、ただの女になってしまう。

どうかせめて片手を私と手を繋ぐために、と願えばそっと振りほどかれた。


そして、私の手はお前という虚像をいっぱいに抱えて、お前を抱きしめることも、しがみつくこともできなくなった。かといって私がその手で生み出すものは全てまやかしで、そのことに気付いた時には馬鹿馬鹿しさにに笑いが止まらなくなった。

お前の像と私が作ったまやかしの世界を足元に叩きつければ、無残に粉々になって風にさらわれていき、腰が抜けるほど、簡単に散り散りになった。その様を見て、また笑った。

 

最高の不幸を材料に最高の愉快を、私がこの手で生み出せる唯一のものなのかもしれない。

丁寧に作ってあっけなく壊して、噛み締めれば、それが“もの”となっていた。