めちゃくちゃに好きだった男のこと

人を好きになることがあまりない。

人だけではなく、物事や行動、概念、ありとあらゆるものに対して「好き」だという感情を抱くことが少ない。

 

仕事仲間に勧められたイケメン俳優、歌手、合コンで知り合った商社マン、

親友に勧められたマンガ、テレビゲーム、有名なご当地ラーメン、

全然好きになれなかった。

 

 

そんな中で私が唯一、みっともないくらい固執して、泣いて手放したくないと言って、

それであっさり手放すしかなくなった人がいた。

 

私抜きのお前の幸せなんて1ミリ足りとも願ってないし、再会して笑って酒を飲むこともできないと思う。

お前のせいで西野カナに泣かされるくらい弱った自分が死ぬほど気持ち悪くて大嫌いだった。

はっきり言って少し恨んでいる。

 

でも、私は物分りの良いかしこい女だからと言い聞かせて、一度も連絡することがなかった。

褒めて欲しい。お前は本当にサバサバしていてかっこいい女だなって褒めて欲しい。

 

お前に褒めて欲しかったのにもう3年くらい経った。

うっかりお前じゃない人間と結婚寸前まで事を運んでみたりもした。

 

お前じゃない男はただの男でしかなかった。

しょうもない結婚観や法律が鬱陶しくて、しまいにはヒステリックを起こし、逃げ、別れた。

 

お前の何が良かったんだろうとたまに思う。身長が高かったことや、華奢なのに筋肉がしっかりついていたこと、お酒が強くて、金銭感覚が一緒だった。好きな食べ物も一緒だった。

ご両親が本当に感じがよくて、娘のように可愛がってくれた。

私が酔っ払って帰ってきた夜は、笑いながら化粧を落とし歯を磨くのを手伝ってくれた。

ビールは常に6本、冷蔵庫に冷えていて切らしたことがなかった。

つまみが欲しい言えば、私が大好きな総がついたレーズンとチーズの盛り合わせ、胡椒のきいたキャロットラペがでてきた。

 

一方でお前は、私が作る和食、酒をよく飲むところ、すぐ冗談を言うところ、

泥酔した俺を寝かしつけるのが得意なことらを気に入っていると言ってくれた。

 

私はお前が好きで好きで仕方なかったし、お前もそうだったはずなのに、だんだんとそうじゃなくなっていった。

 

終わりには終わりしかない。

始まるときは始まる空気が存在する。

それは春の突風に似ている。

 

私たちをまとう風は背中を押すどころか、厄介な雨雲を運んで気だるい雨を降らせ続けていた。

 

諦めて良かった。本当に良かった。

嫌だと泣いた時、確固たる意志で諭してくれたお前はもう私のものじゃなかった。

私のものじゃないお前は他人でしかなかった。

赤の他人が情でつなぎとめるものの大半は無駄だ。無駄でしかない。無駄であってくれ。

 

 

今何してるのか知る由も無い。

仕事は続けているんだろうか。

引っ越してないんだろうか。

彼女はいるんだろうか。

 

お前は私にとって知らなくていいことの塊になってしまった。

知ったら悲しいことばかりでできている。

 

どうか、少しだけ、不幸であってほしい、

不幸であるかさえ知る術がない。