エモ散らかした夜に思うこと

 

そういえば、受付で名前を言うと、外に出ていた看板より少し安い金額で案内された。

 

ドリンクチケットですと手渡されたメダルを受け取り、カウンターでビールを頼む。

すぐ隣の喫煙スペースでは、気だるそうにタバコを吸う若者がたむろして異常なまでに煙っていた。

居心地が悪そうにタバコを吸って、ふと見上げてみると、ゆらゆらと揺れる真っ黒な人影とやけに青いライトに照らされた男たちがモニターに映し出されていた。

フーン、とか思いながらタバコ1本を丁寧に根元まで吸い、重たい防音扉を開けるとモニターで見た人影で溢れていた。

小さな箱ではあるが集客は十分にあるらしい。

 


売れるかもしれない、そんなバンドを多くはないがいくつか見てきた。

 


彼らはいつだって未完成な存在で、あと3ピース足りないパズルのようだった。

簡単に嵌め込まれるはずのピースが、そこにどういう絵柄があるのか容易に想像できるのに、そもそも残りの3ピースがなかった。

ピースを求めて必死に曲を作り、演奏し、仲間と言い争い、時には不吉な沈黙に耐えながら、深夜バイトなどをして生きていた。

 


でも、無いんだよ、もともと、と心で憐れみながら、退屈そうに青いライトに照らされた彼らを眺めて、ビールを飲んだ。

ビールの入ったプラスチックをベコベコとへこませていると、結露した水滴が肘をつたった。音楽に込められた思いを感じ取るより、何よりこの水滴に意識が向いていた。

そんなライブだった。

 


ライブが終わって、今日のバンドとは全く違うアーティストの曲を聴く。

いい曲だなぁ。本当に。そんなことを思いながら乗り慣れていない井の頭線に乗ったら、間違えて各停に乗ったようで、家に帰るまでかなり時間がかかりそうだった。

まあ、今夜はエモいから、とそのまま各駅停車の電車に揺られて音楽を聴いた。

 


あと3ピース足りないって、致命的だ。

残り1ピースならいい、だって残り1ピース足りないパズルってむしろ絵になる気がする。心からそのピースを欲して必死に探すだろう。2ピースもギリギリだろうか。まぁとにかく、3ピースじゃ話にならない。私だったら。

 

私のパズルは何ピース足りないのだろうか。半分くらい無さそうで、絵柄の原型すらわからないかもしれない。絵すら描かれていないかもしれない。もはやパズルとは言えない、切り刻まれた紙かもしれない。

 

今日見た彼らは楽しい打ち上げにでも行くのだろうか。

彼らのような人を見ていると、安心と不安の狭間で脳みそが溶けそうになる。

 

morohaのtomorrowを聴きながら