都合のいい女たち

終電を無くしたと言うと喜ぶ男と喜ばない男がいる。これは細心の注意が必要だ。空気を読むことに全神経を使う。今日泊まってけば?なんて言ってくるので、どうやら居座っていいらしい。ラッキーだ。家に帰るのがダルいくらいには酔っている。

 

化粧落とし忘れたと言うと、あるよと言って平然と小さなボトルを出してきた。

安っぽい紫色の小瓶をつまみ、見ず知らずの女に感謝する。誰だか知らねぇけど1000円浮きました。ありがとうございます。

 

飲み慣れたグラスに注がれたハイボールは氷が溶けきってぬるくなっていた。いつも出してくれるこのグラスは彼女との夫婦グラスの片割れらしい。会ったことねぇけどいつも使わせて貰ってます。ありがとうございます。

 


不味い酒をグッと飲み干してタバコを吸う。眠い。鞄から取り出した携帯用の歯ブラシを出しておもむろに歯を磨き出す。部屋着貸して、と言って出されたくたびれたTシャツが相変わらず着心地が良てため息が出た。

 


今日今から飲める?と連絡がきたので30分後合流できると返した私は非常に優秀な「都合のいい女」なのだろうか。都合の良さでは他の女に負けたくない。来いと言われれば行くし、帰れと言われれば帰る。飲み代はいつも割り勘で、帰れという顔をされた日には自腹でタクシーに乗り込む。高速道路使いますか?と聞かれたら、ええ、使ってくださいと答える。家が思ったより遠いのだ。それでも、何度も行く。この男には幾多の女が取り巻いてるが、そのレギュラーメンバーとして長く側に置いて欲しい。

都合良く酒の相手になりたいし時には適当に抱かれて突き放されたい。でも彼女にはなりたくない。自分の感情に振り回されてめんどくさいからだ。

会ったことない彼女や、私以外の都合のよい女たちに想いを馳せる。こいつのどこがいいんだろうねと呼びかけるが彼女たちからは何も返ってこない。だって別に何もないのだ。

 

歯を磨き終えるとやはり眠かったので、酔ったーとか言いながらベッドに潜り込んだ。

 

明日は仕事だ。酔った頭は判断力を鈍らせて時にとんでもないヘマをやってくれる。

あー終電で帰れば良かったかな。万が一男に手を出されたら寝たふりをしよう。まあ、人の温もりを感じて眠り、寝不足になるのは悪くない。

 


目を瞑って思う。

都合のいい女は、都合のいい男にしかまとわりつかない。いい話だ。会ったことねぇけど私以外に数人いる都合のいい女たち、お前ら皆んなのお陰ですごくおいしいよ。ありがとうございます。これからもよろしくな。

 

いつか他の男の家に泊まった時にコンビニで買いその家に忘れてきてしまった私の「お泊まりセット」がどこかの女の不幸せになりますように。

 

おやすみなさい。