無題

何かを生み出す者の両手は、いつだって塞がれている。そこに、私がするりと器用に潜り込めたとしても、抱きしめられることなどない。体温を奪われ、愛情を搾取され、そしていずれ邪魔になり、背を向けられ、「こっちにくるな」と言われる。 そのような運命を…

野良の出来事

目ヤニまみれになった私の目頭を拭って、「捨て猫みたいだなぁ」と言ってきたので腹が立った。違う。捨てられたんじゃない。私は自分で自由を選んだのだ。 昨夜はよく酒を飲んだ。ビールもレモンサワーも日本酒もシャンパンも飲んだ。ひどい飲み方だった。バ…

男に嘘つかれたとかつかれてないとかの話

お前の好きも幸せにするも全部テキトーで責任なくて最高に無意味。私はそういう無意味が本当に大嫌いなんだよ。言葉に責任がなくて何も刺さらない響かない。そういう言葉は歓談曲のように耳を流すようにするりと通り抜けて消える。心地よくて、本当に無意味…

とある日記

妊娠を知った女子高生は、うつむきながら得体の知らない恐怖に涙を流した。医師に「お母さんにも伝えないと」と諭すと、彼女はしっかり「はい」と答えて、涙を拭った。今時の派手さはあるものの、しっかりとした子だなと思った。産婦人科の看護師として7年間…

ゲームオーバー

私のこと好きなくせにヤケに楯突いてくるので軽く突き飛ばしたら「人の気持ちを軽んじるな」と言い出したので、はい、ゲームオーバーですと伝えた。 今まで築き上げた信頼や感謝や思い出の数々、プレゼント、全てがブラックアウトし、耳慣れたオープニング曲…

最近買って良かったもの

なんかアフィやってんですかとかどいつもこいつもうるさいので証明してやります。 アフィやってねぇつーの! ということで以下にその実力をお見せします。 買って良かったものベスト3 第3位 なんか畳になってるサンダル [trust map] レディース 鼻緒 サンダ…

残像

愛されたさに狂った時、お前じゃない誰かに連絡する時、好きでもない誰かに雑に抱かれる時、うんざりするような恋愛映画を観終わった時、 どうせお前を思い出す呪いや病気、何かしらの災いの類に属する得体の知れない焦燥感に胸が焼けただれてしまう。 かっ…

運が尽きた女の話

「キャバクラか何かで働いたことある?」と男が喋りかけてきた。水商売の女のあの独特の甘ったるい仕草は、染み付いたら一生抜けないらしい。「ガールズバーでちょっとね」と答えると男は「やっぱり」と満足そうに相槌をうったので、なんだか少し腹が立った…

夏に対する苦情

麻布十番祭だと?こんな夏の端くれにアホがよってかかって浴衣着て金銭感覚をバグらせて500円の缶ビールをチビチビチビチビと飲む地域ぐるみのゴキブリホイホイ、訂正、アホ・ホモ・サピエンスホイホイ、まあ俺はどうだって良いんだけどやるなら静かにやって…

夏のしんどい話

どうやら派手に靴擦れをしているようだ。 道玄坂をフラフラと下っていると、身に覚えのある、あの嫌な痛みがじんじんと強くなっていった。 踵の皮膚を薄く薄く削いだその凶器は、2日前にGUで2980円で購入したストラップつきのサンダルだった。 私は思い切り…

エゴと命

生存者のエゴによって生かされる人間を見た。 人工呼吸器をつけ、鼻から栄養を送っているらしい。点滴を常に2本、手の甲は内出血で鉛のような色になっていた。 片手にはミトンをし、自由からかけ離れた生活を余儀なくされている。 目の前で横たわっているこ…

仰げば尊し

何度も会っていたのに、いままで男女の関係と呼べることはなかった。まるで、私の恋心を、故意に終わらせようとしているみたいで、少しだけ悲しかった。 何も言えず離れ離れになって、何年も会えなくなっても、「友達」という関係だから、それが自然だった。…

都合のいい女たち

終電を無くしたと言うと喜ぶ男と喜ばない男がいる。これは細心の注意が必要だ。空気を読むことに全神経を使う。今日泊まってけば?なんて言ってくるので、どうやら居座っていいらしい。ラッキーだ。家に帰るのがダルいくらいには酔っている。 化粧落とし忘れ…

まみちゃんへ1

まみちゃん、生きていますか。 ふとあなたのことを思い出したので書きました。 大学二年時にそこそこ大きな不祥事をしでかした私は三年で他大学に編入させられた。 学部こそ分野は一緒だったものの、必修授業がガバガバに抜けた状態だったので後輩(もはや先…

エモ散らかした夜に思うこと

そういえば、受付で名前を言うと、外に出ていた看板より少し安い金額で案内された。 ドリンクチケットですと手渡されたメダルを受け取り、カウンターでビールを頼む。 すぐ隣の喫煙スペースでは、気だるそうにタバコを吸う若者がたむろして異常なまでに煙っ…

優しさについて

優しさについて考えることがある。 私は生きてきてこの方、専ら偽善者であり、自分以外の誰かに何かを尽くす際にとりわけ苦労する。 まるで、自分の中の優しさという奥深い井戸の水を必死に手で組み上げるような感覚がある。それは非常に面倒がかかるし、何…

ダメ人間

耳鳴りは耳をゆうにこえて、脳髄をも鳴らした。痛みにも近い感覚はまぶたを緊張させ、眉が歪んだ。フェードアウトしていく金属音、痛みとその不快な音から解放されて私はひとつため息を吐く。 残酷なのは地球のどこかで小さな子供が腹を空かせて死んでいくこ…

めちゃくちゃに好きだった男のこと

人を好きになることがあまりない。 人だけではなく、物事や行動、概念、ありとあらゆるものに対して「好き」だという感情を抱くことが少ない。 仕事仲間に勧められたイケメン俳優、歌手、合コンで知り合った商社マン、 親友に勧められたマンガ、テレビゲーム…

未完成の文

わたしは確かに、会社の始業に間に合わないとか、気分の波が大きくなっていて“うつ病”の症状は十分にある。 自分では認めたくないし、こんな所で得体の知れない症状を理由に今さらたくさんのことを諦められるほど人生で妥協する術を学んでこなかった。 たく…

酔った男と傷付きたくない女

男が酔った時に電話をかける相手は、 好きな女なのか、手頃にセックスをしたい女なのか、討論の余地があまりにもありすぎた。 私は、そんな余地を無視して、セックスしたい女に電話するものだと思うことにしている。 気持ちよく酔ったその夜に、男は好きな女…

佐々木のこと

大学生の頃、何かの飲み屋か知り合いの紹介で知り合った男友達がいる。佐々木という。 もう5.6年の付き合いになるのだが、その出会いのことを覚えていない。もしかしたら、出会い系だったかもしれない。本当に忘れた。 なんやかんやと、忙しい合間を縫っては…

DISは返ってくる話

お前の考察は鋭い。 鋭利すぎるくらいだ。 その丁寧に磨き上げたニードルは誰に向けたものなのか解らないが、数千人を傷付けるには十分すぎた。 考察は人々に刺し渡る事で錆び、切れ味を失う。それが刺さる時の苦しみをお前は一生理解できない。理解できない…

死んだ恋人への悪口

生活音がめちゃくちゃうるさい 私は洗濯や掃除もたまに手伝うのに、私が必要ない料理まで強要してくる、自分で作れ 私の体調不良を軽視されている気がする 嬉しいけど喧嘩した後物でつるところは器小さいなと思う 箸の持ち方やハンガーのかけ方、冷蔵庫にレ…

父親が死んで

父親が死んで1年が経とうとしていた。 富山に向かう北陸新幹線は足元が冷える。日が沈むことで気温がすっと落ちているようだ。 父が体調を崩したのは去年の正月あたりだった。卒業を控えた私は浮かれていて何も気に留めていなかった。念願の東京だ。運や神、…

寝て起きたらうつ病になってた話

目が覚めると、 どうしても、何がなんでも、 仕事に行きたくなかった。 行かねば、起きねば、 そんなことを考えていたら30分ほど経っていた。 これじゃまずい遅刻だ、シャワーは諦めるしかない、せめて髪を整えてお化粧をせねば、 そんなことを考えていたら…

田町について

東京に来て2年半が経った。この小さくて広い東京にも「嫌いな街」が増えていった。 田町は新卒で入社し勤務していた職場の最寄駅である。本当に、うんざりするくらいに磯臭くて、どうにもこうにも吐き気がする街だった。ドブのように濁った川が交差しており…