酔った男と傷付きたくない女

男が酔った時に電話をかける相手は、

好きな女なのか、手頃にセックスをしたい女なのか、討論の余地があまりにもありすぎた。

 


私は、そんな余地を無視して、セックスしたい女に電話するものだと思うことにしている。

気持ちよく酔ったその夜に、男は好きな女に想いを馳せない。酩酊して浮かび上がる名前は性欲やエゴのフォルダーから選出される。

適当に選んで、断られても傷つかない、誘って勘繰られない、あわよくば家まで来てもらえる、そんな女から声がかかる。

異論は認めるが、私だって傷つきたくないのでそう思うように努めている。

 


その夜は23時ごろに電話がかかってきた。甘ったれた声で何してるのと聞かれる。何もしてないよ、と答える。

今さー、結構飲んで帰ってきてさー、お前と飲みたくてさー、

はいはいと返し、私はごめん明日早いからと言って断る。

そっかー、また誘うわー、

うん。じゃあね。

 


別に明日早くないし行きたいのは山々だが、断らなくちゃと言い聞かせる。

 


私だって傷つきたくないのだ。

そういう一心で誘いを断ることは少なくない。

 


私は変に我慢強いので、感情を表に出したりわがままを言うことはほとんどない。

そうやって、サバサバしているなどと勘違いされながら、今まで生きてきた。

 


本当は、酔って甘えたい相手が誰よりも私であってほしいし、唯一の相手でいたい。

そうであってくれたらいいな、と思いながら、こういう誘いに乗って、

私に連絡を入れる前に3人女に声をかけていたり、うっかり上位の女とアポが取れてやっぱいいやと言われることが怖くて怖くて仕方ない。想像しただけで虚しくて泣きたくなる。

 


だから断るしかないのだ。

 


私が酔って電話をかけてしまう相手は、

元カレでも好きな男でもなく、気の許せる友人でもない。

 


お客様の都合により、というアナウンスを聞いて何してんだろうとつぶやいて切る。

 


傷付きたくない一心なんだよ、なあ、と言って、少し涙ぐみながら大人しく家に帰って歯を磨いて寝るだけである。

 

 

 

 


そういえば、さっきの電話の男は、私以外の女が捕まるのだろうか。いやもう捕まっただろうな。まあ、別にどうでもいいや。

 


相手の好意を疑う前に自分の好意がニセモノであることを忘れてはいけない。

 


やれやれ、傷つかないために必死である。